ゼロの使い魔第一期

ほんと、ゼロの使い魔っていい作品です。


ゼロの使い魔は、
小説から読み始めて、今回アニメを見たわけですが、

この作品は一言で言えば、

「堅っ苦しくないファンタジー」と言えると思います。

ファンタジー世界の土台が、現実の世界に近いものになっているにも
関わらず、それを重要な部分だけしっかりとさせて世界を完成させています。
細かい設定に口を出していったら、色々な違和感は出てくるのでしょうが、
それを関係なしにさせてしまう、話の面白さが、この作品にはあると思います。

キャラクター達は、全員生き生きとしていて、変に固い何かに縛られていたり
していない。この辺りにも現実的な雰囲気が漂っています。
わかりやすい感情、友情や愛情など、そういう現代でも、
大切なものを、特に強く扱っている内容だと思います。

設定では、
ゼロという単語から、様々なことが派生していたり、使い魔としての能力も、
物語に色々なバリエーションを与えていて、とても柔らかい印象があります。
その柔軟性と、色々なお約束が、この話の最も秀でたところなのでしょう。
虚無の魔法というものも、とても面白いと僕は思いました。

小説版に近い今回のアニメ一期でしたが、
二期からは多少ずれてくるのが残念です。

小説のアニメ化はあまり成功例が無いだけに、今回の作品は結構楽しめました。
小説では味わえない部分で言えば、色気シーンが多数用意されていて、
その辺りには、スタッフの力が十分に発揮されています。
代わりに、戦闘シーンはとても勿体無いことになっていますので、
そういうのは余り期待しない方がいいかと思います。

今三期が始まっているアニメの一期を見て、必死に復習している色流でした。

次は二期を見ようと思います。面白い仕上がりになっていますように……

追伸:こういうのを見るとファンタジーが書きたくなる……orz
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[アニメ
力尽き……
公約より、少し遅れましたが、


アムネシアのリコ完成したぞーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!


目がしぱしぱ、して、痛いです。

あとがきは、また後日、書きたいと思います。

どなたか、この駄作を読まれた方がいましたら、感想お待ちしております!!!

でわ、COLORFLOW管理人、色流でした!!
今度は、あとがきでお会いしましょう!
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[日記

thema:物書きのひとりごと - genre:小説・文学


アムネシアのリコ(79)

   エピローグ ビー・マイ・ファミリー

「とりあえず、家に来いよ。病院には大嘘ついたんだから、帰れないだろ?」
 佑介は莉子を駅までおんぶしていき、旅行鞄に入っているかろうじて少ししか濡れていない服に、トイレで着替えるように言った。
 ずぶ濡れの佑介は、一刻も早く家に帰りたかった。
「お前の家、誰もいないのか? 私を連れて帰ったら、怪しくないか?」
「俺一人暮らしだから、家には俺一人しかいないんだけど」

「一人…………お前変な事考えてないよな」
 莉子は上目遣いで佑介を見る。その上目遣いが睨みに変わっている事が、少し今までと違う。
「信用してくれよ。部屋はもう一つあるし、金は持ってないんだろ?風呂に入らないと、絶対に風邪引くぞ。しかも病院に行けないから、悪化して死ぬかもしれないんだぞ?」
 莉子は少し考えた後、
「わかった。とりあえず、信用するから。早く、家に連れて行って」
 莉子は寒いのか、小刻みに震えている。

「そうだな、このままじゃ俺も風邪を引く……」
 佑介は二人分の切符を買って、電車に乗り込んだ。
「お金の事はごめん、今は一銭も持ってないんだよ」
「わかってるよ、そんな事位。だからここにまだいたんだろ?」
 こくりと頷く莉子。

「そういえばさ、莉子お前、自分の名前を少女マンガのキャラから取っただろ」
「聞いたのかっ? 確かに、漫画から取ったけど、それがどうかしたのかよ……」
「いや、だから莉子が記憶が完全じゃないって、嘘をついているってわかったんだよ」
「そっか。そのせいで捕まってしまったって訳ね」
 莉子は電車の窓から、外の風景を見ている。雨は段々と止んできているようだ。

「それと、俺の事をお前って呼ぶのやめないか? 一応年上なんだけど」
「――――じゃあ、佑介はどうだ? さんとか君とか、付けたくないんだけど」
「まあいっか、なんかその方が家族っぽいし……」
「誰が家族だ……誰が…………」
 莉子はそっぽを向いた。佑介はその姿を見て、くすっと笑う。

 そうして、佑介と莉子は二人で帰路についた。
 七雲駅に着いた頃には雨は完璧にあがっていて、曇り空が晴れた空は月の光が眩しい。
 自転車の後ろに莉子を乗せて、佑介は軽快に自転車を走らせる。
 莉子は最後まで拒んで、佑介の胴に腕を回そうとしなかったが、服の裾を持つ事で手を打った。
「結局、莉子はどうして事故に遭いそうになったか、思い出したのか?」
「思い出してない。思い出したのは、昔の事ばっかりで、結局、家も、親の名前も、自分の名前も、何で事故に遭いそうになったのかも、思い出してない」
「そっか。まあ、ゆっくり思い出せばいいさ」

「でも、一つだけ大切なことを思い出したんだ」
 莉子の声が少しだけ明るくなったと、佑介は感じた。

「何を?」
 莉子は小さく息を吸って、心に一つだけ灯っている暖かいものを、ゆっくりと吐き出した。

「私は、大切なものを探していたって事……」

「えっ? 聞こえなかったんだけど、もう一回!」
「駄目だ。もう言わない。二度と言わないよっ!」

 莉子の楽しそうな声が、ひっそりとした夜の街に高々と響き渡った。
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[一次小説「アムネシアのリコ」

thema:自作連載小説 - genre:小説・文学


アムネシアのリコ(78)
「くそっ……その場所には…………いかせないぞっ!」

 佑介は最後の力を振り絞って、段々と加速していく。
 五メートル、三メートル、一メートル、
「つかまえたっ!」
 佑介は莉子が抱える鞄のストラップを掴み、引き寄せた。

「やめてくださいっ、何で追いかけてきたんですか……」
「莉子こそ、何で逃げたんだよ。別に逃げなくてもよかっただろ……」
 雨に打たれる二人は、お互いの顔が見えない位に濡れて、服はこれ以上水を吸わない位になっていた。
「手紙に書きましたよね、もう会いたくないって、だから……もうやめて……」
「何も変わってないじゃないか、手紙の通りだと、莉子は変わっている筈だったんだろ?」
「変わってるんです。だからもう、私と話さないで……」
 莉子は顔を背ける。

「何でだよ。俺は大丈夫だから」 佑介は穏やかな声を心がけて言った。
「大丈夫なんて、何でわかるんだよッ!
 お前、私の何を知ってるんだよッ!」

 佑介の表情が固まる。
 佑介の顔を睨みつける莉子の表情は、いままで見たことの無い、怒りに満ちた表情だった。
 眉毛の端と、目尻が釣り上がった莉子は、佑介の顔を睨みつけていた。

「お、お前って、言ったのか?」
 佑介は唖然としていた。
「――――言ったよ。言葉が汚いだろ? これが私の喋り方だったんだ」
「……汚いとかはないけど、普通に喋れていたのは、我慢していたのか?」
「我慢してた。自分の事思い出してからは、丁寧に喋るのが辛かった」
 莉子の表情は力を無くして、肩からずり落ちる様に鞄が地面に落ちた。
「今の私を、お前に見せたくないんだ。記憶が戻った私は、見て欲しくないんだ」
「どういう意味だよ……」

「私、思い出したんだ。家族は私の事を、大切だなんて思ってなかった。
 家で私は、父親に無視されて、母親も私から逃げてたんだよ」
「それが、どうしたんだよ!
俺は莉子が家族から思われてなかったからって、嫌ったりなんかしない。友達だ!」
「昨日嘘ついたじゃないかッ! 家族と一緒で、あいつらもお前も私を放っておいたんだ」
 莉子は鞄を持ち上げて、どこかに行こうとする。
「じゃあ、これからどこに行くんだよ! 居場所はどこにもないんじゃないか……」
「どこでもいいじゃないか。お前には関係ない」
「関係なくなんてない、大切な友達を放っておけない!」
 莉子の動きが止まる。鞄がまた莉子の手から落ちた。

「大切なんて、聞きたく、ないよぉぉぉぉぉぉっ」
 しゃがむ様にその場に座り込む莉子。声が鼻声になっている。
「昨日は、本当にごめん……これからは絶対に、お前との約束を守るから」
「……私は、信じたい、けど、裏切ったのはお前だぁぁぁぁっ」
 急に立ち上がり、佑介の襟を掴んだ。
「謝る。何度だって謝る、だからっ、まだ、俺を信じて欲しいんだ……
 まだ、莉子との関係を無くしたくないんだよっ!」
 佑介は、莉子の肩を掴んだ。

「…………何でそこまで私にこだわるんだ…………死んだ妹の、代わりかよ……」
 言われた佑介は、動揺して肩を掴む力が少し弱まる。それが莉子にもわかった。
「やっぱりそうだ。勝手に死んだ妹を重ねて、それを求めてるだけじゃないか……」
「……そうかも知れない。俺は妹の代わりが欲しいのかも知れない。
でも莉子だって、家族の代わりが欲しかったんじゃないのかよっ、違うのか?」

 莉子は泣きそうな顔を佑介に向けた。
 必死に涙を我慢している、佑介にはそう見えた。
 目を潤ませるその顔を見て、莉子という人間は、何も変わっていないんだと思った。

「何も変わっていない、莉子は莉子だ。俺は莉子と、もっと一緒にいたい」
「私は…………私も……お前と一緒に……いたいんだよ……」
 佑介は莉子の頭を腕で抱きしめた。

 莉子は幼児のような声で、佑介の耳元で散々泣き喚いた。
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[一次小説「アムネシアのリコ」

thema:自作連載小説 - genre:小説・文学


アムネシアのリコ(77)

     5

(とりあえず、駅に向かおう)
 記憶が完璧に戻っていないという事は、多分この町が島の中にあるという事も知らないという事だ。歩いては帰れないし、海を渡るには飛行機か、船の二択。どちらにもお金がかかるから、普通の方法じゃ帰ることができない。

 だから、この乙部島からは出ていない。これは事実。
 そして、帰る方法がわからなくて一番に行くと思われる場所が、大きな駅。
 つまり、初めて莉子と会った伊野部駅に現れる可能性が高いという推理だった。
 駅前には、傘を差したサラリーマンと学生が、土砂降りの中を必死に家に帰ろうとしていた。その中に莉子が紛れていないか、必死で顔を巡らせる。

 佑介は、人ごみを縫うように自転車を走らせ、何とか七雲駅に着くことができた。傘無しで通り過ぎていく佑介を、サラリーマン達は正気か? という顔で振り返る。
「そういえば、莉子と初めて会ったときも、急いで駅に向かってたっけ……」
 そんな事を思い出しながら、佑介は駅の中に入っていった。
 佑介の仕事着はたっぷりと水を吸い込んでいて、絞れば水がどばどば出てきた。

「このままじゃ、風邪ひくな……俺……」
 ズボンはシャツより水を吸っていないが、絞ることが出来ない為気持ちが悪い。このまま銭湯とかがあったら、入ってしまいたいと、佑介は思う。
「莉子も、濡れてるかもしれないんだよな……早く見つけないと」
 電車から人が溢れてくる。その中にいるかもしれない莉子を見逃さないように、しっかりと目を凝らしておく。しかし、いなかった。

 電車に乗り込んで扉の近くを陣取った佑介は、夏休み初日同様、一緒に電車に乗っている客にちらちらと見られる。しかし、ずぶ濡れの佑介はしょうがないと思った。
 佑介は出来るだけその視線を無視しながら、一緒の電車に莉子が乗っていないか探す。
 しかし、いない。

(早く着け、早く着け、早く)

 伊野部駅から降りた佑介は、左右に顔を巡らせながら、改札口に向かった。
 駅員に、莉子に似た人が改札を通っていないか、確認しようと佑介は思った。
「すいませんっ! この改札に、旅行鞄を持った中学二、三年の女の子が、通りませんでしたか? 黒髪が肩まで伸びてて、センターで分けてて、」
「お客さんちょっと待ってください……急にそんな事言われてもね。ここを一日何人の人達が通ると思ってるんですか」
 改札にいた駅員は戸惑いの声をあげた。そんな事俺もわかってるよ、と佑介は思った。

「ここ数時間だけでもいいんで、思い出せませんか? お願いします!」
「うーん、ここ数時間ね〜。君が言った子の特徴なんて結構どこにでもいる様な気がするんだけど―――ほら、そこで座ってる子だって、そうじゃないかっ」
「…………そこで?」
 佑介が振り向いた先、
 改札を出てすぐの壁に、
 もたれかかった少女、
 それは間違いなく、

「莉子ッ! おいっ、俺だ、佑介だ――――!」
 改札を出て駆けつけようとする。
が、反対側から大量の人が押し寄せてきたため、通ることが出来ない。
 人がいなくなって、さっき莉子がもたれかかっていた壁を見ると、
 そこに莉子の姿は無かった。
 目を左右に泳がすと、駅の出口に向かう方向に莉子は走っていた。

「何で、逃げるんだよっ!」
 佑介は改札に切符を通して、莉子を追いかける。
 莉子の足は予想外に速く、距離は全然縮まらない。むしろ服が重いせいで、どんどん差がついてしまっていた。
「絶対に運動部に所属してるだろ、あいつッ……」
 とうとう莉子は駅を出てしまい、佑介もそれに続いて、土砂降りの中に身を投じた。
 佑介は走っているうちに、いつの間にか『加藤食堂』の方に来ていることに気がついた。

 よく見ると、目の前には莉子が前事故に遭いそうになった場所があった。
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[一次小説「アムネシアのリコ」

thema:自作連載小説 - genre:小説・文学


アムネシアのリコ(76)
 廊下には受付にいた女性と、警備員に見える男がこちらに向かってきていた。

「あの人です。あの人が、許可証無しに病院に入ってきたんです!」
 佑介は受付の女性に指を指された。警備員が佑介に向かって走ってくる。
「待ってくれ、今、あんたに捕まっている場合じゃ……」
「話は後で聞かせてもらいましょう」
 佑介は必死でかわそうとしたが、警備員は目の前で逃げ出そうとする侵入者を捕らえること等、容易かった。

 その結果、佑介は警備員に廊下に組み伏されることになった。

「今、俺が行かないと、駄目なんだよ……お願いだから、離してくれ」
「すいませんが、話を聞かせてもらうまでは帰せませ」「ちょっと待ったッ!」
 鷲木が診察室から出てきて、警備員に呼びかけた。
「この方を離してはもらえませんか? 事情なら私が話しますので、どうか」
 鷲木は平謝りするかの様に、頭を何度も下げた。

 受付の女性は、鷲木に押されるがままに、
「そうですか、先生がそう仰るなら、すいません。警備員さん離してもらえますか?」
「そう仰るなら」 そう言って、佑介は開放された。
「貴方は何かを知っている様ですね。今は聞きません、何故名前を知っていたのか、後で教えていただけませんか? それで、今は良しとします」

「すいません、必ず後で先生に話に来ます。今はすいませんっ!」
 佑介はもう一度、廊下を駆け出した。
 佑介が何故、聞いたことの無い莉子の本名や、莉子の親の名前を言うことができたか。
 それは簡単な理由だった。

「あいつ、何も思いつかなかったからって、漫画のキャラクターの名前、そのまま使うこと無いだろうが!」

 佑介は玄関を飛び出して、自転車に跨る。
 莉子はまだ、完璧には記憶が戻っていない。
 だからこそ、今も、この島から出られずに、どこかを彷徨っているに違いない。
「待ってろよ、莉子。絶対に、探し出してやるからっ!」

 佑介は玄関に置いた傘の存在を忘れて、土砂降りの雨の中を走っていった。
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[一次小説「アムネシアのリコ」

thema:自作連載小説 - genre:小説・文学


アムネシアのリコ(75)
「最高タイム更新…………だな」
 今まで、どんなに急いでも出せなかった時間で、佑介は七雲総合病院に着いた。
 玄関に傘を置いて、佑介は受付に向かう。最近は毎日のように混んでいたが、こんな時間だからなのか、受付の女性以外、誰もいなかった。

「一日で二回もすいません。今度は鷲木先生への面会をお願いできますか?」
「は、はあ。でも後五分もありませんが、それでもよろしいですか?」
 電話をかけ始める受付。しかし、その光景を見て痺れを切らした佑介は、許可がおりる前に、鷲木の診察室に向かって走り出した。

「ちょっとっ! あなた、待ちなさい!」

 佑介は制止を聞かずに、走り続ける。俺にはそんな時間はないのだと、走り続けた。
 階段を駆け上がり、廊下を走りぬけ、診察室に着いた。
「先生! 莉子の、住所を、教えてもらえないですか?」
 回転椅子を回す鷲木は、佑介の声に驚かなかったのか、平然と佑介に振り向いた。

「おや、二海君。今受付から電話が来たのですが、貴方でしたか」
「時間が無いんです。住所を教えてください!」
 佑介は穏やかに話す鷲木の言葉を待っていられない。
「その情報は個人情報の漏洩になるので、例え貴方でもできませんよ。そんな事は貴方の歳ならわかりますよね? それとも貴方はそんな事もわからないのですか?」

「わかってます。でも、俺は莉子に会わなくてはいけないんです。お願いします」
 佑介は目一杯頭を下げた。赤橋と一緒に頭を下げたあの時の様に。
「やれやれ。ちなみに、彼女の苗字は葉月ですよ? 葉月麻衣が本名です」
「………………え、葉月、麻衣…………ですか?」

 佑介に脳に違和感が広がる。

 ボールペンで書いた点のように小さな違和感が、少しずつ大きくなる。

「…………もしかして、父親の名前は、俊介、じゃないですよね!」
 佑介は鷲木に掴みかかるようにして、肩を揺らした。すると、
「何故それを! その通り、彼女は俊介と言ってましたが、何で知ってるんです!」 
 逆に鷲木が佑介の襟首を持って、問いただす。
「そして、母親の名前は」 

「「晴香っ!」」 二人の声がシンクロする。
 佑介は勝ち誇ったような顔に変わり、鷲木は更に訳がわからなくなった。
「何でわかるのですか……、貴方は私の心を見透かしているかの様ですね……」
 鷲木がよろける。未知の恐怖に対した人間の様な、そんなよろけ方だ。
「何故かって、それは莉子と仲良くないと、一生分からないだろうなっ!」

 佑介は診察室を飛び出す。
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[一次小説「アムネシアのリコ」

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アムネシアのリコ(74)
 読みながら佑介は、自然と目尻に涙を浮かべていた。

 読み終わった佑介は、ベッドから勢いよく立ち上がる。窓から外を見ると、外はどしゃぶりの大雨になっていた。
「そんな事気にするなんて、お前は何でそんなに、そんなに…………」
 危うく、右手に握っていた手紙を握りつぶしそうになる。
 佑介は、莉子の事を諦め切れなかった。こんな形での別れになってしまった事が悔しい。もう一回会って、話がしたかった。

しかし、どこをどう探せばいいのだろうか。

 この島に来てまだ二年目の佑介が、この町以外に住んでいる少女を、どうやって。
「――――そういえば」
 急に今日一日の会話が、佑介の頭を駆け巡り、その中で、鷲木の言葉が引っかかった。
『自分の名前も、住所も、親の名前も、細かいプロフィールまで答えていきました。』

「住所さえわかれば、こっちのもんだ!」
 時計を見る。長針は九を指している。
それは後少しで、病院が閉館してしまう事を示していた。それでは駄目だ。今日会わないと。
 手紙を机の上に置いて、佑介は玄関に立てかけた傘を持って扉をねじ開けた。
 記憶を取り戻した莉子に、拒絶されてもいい。
 性格が変わった莉子に、何を言われてもいい。
 でも、手紙に書かれた字で、最後の言葉が終わるのは、絶対に嫌だ。

 佑介は傘を開いて自転車に跨る。
滑りやすい、雨でぬれた道という事を忘れているかのようなスピードで、
 佑介は走り出した。
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[一次小説「アムネシアのリコ」

thema:自作連載小説 - genre:小説・文学


アムネシアのリコ(73)
『佑介さんへ

 急なお別れになってしまい申し訳ありません。
 佑介さんがこれを読んでいる時、多分私はこの町にいません。

 約束守ってくれなかった事は、もう怒ってないので大丈夫です。
 何でかというと、それがきっかけで私の記憶が戻ったからです。
 でも、記憶が戻るにつれて、私の中で何かが変わっていく感覚が広がっていきました。
 記憶を失ってからの私と、記憶を失うまでの私が溶け合っていく様な感じです。

 もう一度佑介さんに会いたかったんですけど、その頃には私は別人になってそうで、
 そんな自分と会わせたくないから、だから、会わないでおこうと思います。
 身勝手でごめんなさい。今までの時間、とても楽しかったです。
 何も言わないで行くのがいいと思ったんですけど、

 今の私が、この気持ちを忘れないうちに、伝えたかったので、書きました。

 佑介さん、あなたの事が好きでした。

 会った瞬間から何かを感じてしまうっていうのは、運命っていうんでしょうか。
 それから、私の友達になってくれたり、一緒に花を見たり、
 いなくなった私を探してくれたり、ご飯を食べる約束をしてくれたり、
 全部嬉しかったです。全部大切な思い出です。
 でも、私が変わったら、その思い出も嫌なものに変わってしまうんじゃないかと思うと、
 凄く、怖いです。

 だから、佑介さんが好きな私はこの手紙に残して、私は消えます。
 今までありがとうございます。

 さよなら                                                莉子』
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[一次小説「アムネシアのリコ」

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アムネシアのリコ(72)
 もう一度同じように身体を横にしようと、ベッドに行こうとしたその時、

 佑介はある事を閃いた。
「漫画、莉子にあげた漫画でも読むか」
 床で横になっている鞄を持ち上げ、中に入っている漫画「トライアングル」の一巻を取り出す。莉子は丁寧に読んでいたのか、その見た目は新品そのものだった。
「確か、面白いって言ってたよな」
 ベッドに横になって、ページを繰る。ご飯が炊けるまでの、少しの時間つぶしにはなるだろう。佑介はそう思っていた。

「なかなか面白いな」

 一巻を早々と読み終わり、次の巻に進む。
 少女漫画という事を忘れさせるような洗礼されたストーリーに、様々な障害、恋を叶えていく過程、挫折、色々な要素が、読者を飽きさせる事無く、話を進めていく。
 いつの間にか、米が炊き終わった事を告げるタイマーが鳴っていても気づかないほどに、
 佑介はその漫画に没頭していた。
「もう六時半か……」
 四巻まで読み終えたところで、佑介の意識が漫画からやっと開放された。

 その理由は、外からなにやら雨らしき音が聞こえてきたからだ。
ベランダを見ると、雨が小ぶりだが降っていた。干してあった洗濯物を取り込んで、かごの中に無造作に詰めていく。後で畳む為のかごだが、佑介はここからそのまま着ることが多い。
「ジャーもいつの間にか、タイマー鳴ってたんだな」
 ジャーは炊飯モードから、保温モードになっていた。
「とりあえず………………最後読んでからにしよう」
 佑介は先ほどの空腹を忘れた様で、鞄から買ってあった最後の巻である五巻を取り出した。

 佑介はわくわくしながらページを開く、すると、
――――一枚の紙切れが佑介の額に落ちた。
「栞か? 漫画に栞って珍しいな、それに大きさが大きいような……」
 額に手を伸ばし、目の前に持ってくる。
 そこには、何の絵柄も無い、花が圧してあるわけでもない、
 ただ小さくか弱い字が一面に書き込まれた、手紙だった。
「これ、もしかして莉子がっ!」
 佑介は慌てて飛び起きると、その手紙を目の前に引き寄せた。

 手紙にはこう書いてあった。
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[一次小説「アムネシアのリコ」

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アムネシアのリコ(71)

     4

 家に着いた佑介は、鞄を床に放り投げて、ベッドに横たわった。

「俺の顔を見たくないくらい、嫌われたのかな……」
 ごろりと身体を回して、天井を眺める。
 自分のした事が許されない事はわかっていた。約束を破るとはそういう事だ。
 それでも、
「何も言わずに、去っていく事ないじゃないか……」 枕に顔をうずめる佑介。

 ぐぅ

「はは、こんな時でも減るものは減るんだな」
 佑介は立ち上がって、キッチンにある炊飯ジャーの蓋を開ける。
 当然の様に米粒一つ存在しない。
 釜を取り出して、米びつから二合分を測り入れて、蛇口から水を米が浸かる高さまで注いだ。
 そして、佑介は力任せに米をかき回した。

「俺の馬鹿やろぉぉぉぉおっ!」
 勢いよくぬかを吐き出す白米達が、佑介の手から逃げ出しているかのように、釜から飛び出して、流し台の排水溝の中に吸い込まれていく。
 いつもなら慎重に米を研ぐ佑介だが、今の佑介には冷静さが欠片もなかった。
「約束忘れるなんって、どういう頭してんだろうなぁぁぁぁぁっ!」
 目一杯に白くなった水を見て、慌てて手を止め、ゆっくりとした手つきで水を流していく。
 流れきったところで、もう一度、水を満たした。

(ちょっと、落ち着かないとな)

 佑介は釜に残った米が少し少なかったのを見て、冷静になった。
 力任せに暴走しても、何もあなたは掴むことができませんと、神様に言われた気がした。
「よし、終わり」
 米を洗い終えた佑介は、ジャーにセットして、スイッチをオンにした。
 冷蔵庫を開けた佑介だったが、減っていくだけで何も増えないその中身は、やはり夕飯用の材料など残してはくれていなかった。

「おかずは…………カップラーメンでいいか……」
 流しの下にある棚から、一つのカップラーメンを取り出して、机の上に置く。
「もうする事ないじゃん」

 少しだけ好きな事に入る『料理』をして、気を紛らわせる作戦だったが、米を研ぐだけで、敢え無く終了してしまった。
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[一次小説「アムネシアのリコ」

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アムネシアのリコ(70)
「ちょっと待ちなさいよっ!」
 佑介は振り返ると、そこには怒りを露にした優貴菜がいた。
 優貴菜は駆け足で佑介の後ろまでやってくると、
「何でっ、何で守れない約束したの! 何であの子との約束守れなかったのよ!」
 病院の廊下だという事を気にしないで、優貴菜は気持ちのままに叫んだ。

「……それは…………」
 佑介は何も言えなかった。
 呑気に別の人と夕食を食べていた事など更に言えるはずがない。
 昨日の事実を思い出して、更に自分が恥ずかしくなる。

「あの子は君を許すかもしれないけれど、私は許せない。
 昨日、記憶が戻ったとか、そんな事はどうでもいいわ。何で来なかったのよ!」
「俺が悪いんです……約束を忘れるなんて、最低だと思います…………」
 佑介は顔を伏せて震えた。
「わかってるんじゃない。確かに最低だわ。
 それに、先生は黙って退院させた訳じゃない。どれだけの事を言っても、あの子は聞いてくれなかったの。それだけ、先生も苦しんでるのよ!」
 優貴菜は佑介から顔を背けた。

「そうですよね、先生も莉子のために、とても真剣になってたのを忘れていました……」
 佑介は少しだけ冷静になった。
「すいません。さっきから俺は、相当馬鹿なこと言ってますよね」
「そうね。大馬鹿だわ。
君に渡したいものがあるの。ちょっと来て」
 そう言って優貴菜は、莉子が今まで入院していた部屋に佑介を案内した。

「これよ」
 そこには佑介が莉子に買ってあげた、少女マンガ五冊が、きれいに積まれていた。
「俺、相当嫌われてるみたいですね。プレゼント返されるって」
「そうね。それどうしようもないからさ、持って帰ってよ」
 優貴菜に言われるままに、無言で鞄にマンガを詰める。

「じゃあ、これから入院しなけりゃ会うこと無いと思うけど。達者でね」
 優貴菜はそう言って、佑介のそばを去った。
「後一つだけ」
 優貴菜がもう一度佑介に振り向く。
「今日の莉子は少し変だったわ」
 それだけ言って、優貴菜はまた歩き始めた。
「――――帰るか」
 佑介は受付に許可証を返して、病院を出た。

 心ここに在らずの佑介は、家に向かってゆっくりと自転車をこぎ始めた。
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[一次小説「アムネシアのリコ」

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アムネシアのリコ(69)
「記憶が戻った………………本当ですか?」

 佑介は驚きの余り、口が開いたままになっている。
「記憶喪失というものは、その人が記憶が無いと言えば、記憶喪失であり。記憶が戻ったと言えば、それは治ったという事です」
 鷲木は淡々とした口調で言った。

「莉子が、記憶が戻ったと言ったっていう事ですか」
「そうです。自分の名前も、住所も、親の名前も、細かいプロフィールまで答えていきました。それが治ったという証明です」
「それで退院させたんですか? 先生が言ったんですよ…………一人にしたら危ないんじゃないですか?」 佑介は力強く言った。

「私は、彼女自身が選んだ道を止める事はできません。今までの彼女は、自分の事がわからず、迷っていました。でも、今の彼女は迷わず、退院する事を選んだんですよ」
 熱くなっている佑介とは反対に、鷲木は常に冷静だった。
「……何で退院させたんですか…………」 その冷静さが、佑介をさらに苛立たせていた。
「貴方は、自分で撒いた種が咲かせた花に文句を言っているという事が、
 どうやら分かっていないようですね」
「例えがわかりません。どういう意味なんですか?」

「すいません、私の例えはわかり辛いみたいで。
貴方の昨夜の行動が、今回の件に繋がっているという事を言ったんです。
わかってもらえました?」

 佑介の頭の中で、一つの理由が浮かび上がった。

「理解してもらえたみたいなので、詳しくは触れませんが、
 彼女はその事がきっかけとなって記憶を思い出した、そうとしか考えられません。
 昨日彼女に起きたきっかけらしき物は、他にありませんからね」
 鷲木はやれやれという手振りをした。佑介は自分が原因という言葉にうつむいてしまう。
「今回の事と、過去の事が彼女の中で結び付いた。それによって記憶を取り戻した。
これはかなり妥当性の高い仮説です」

 佑介は既に、何も喋れなくなっていた。
 自分の失態が原因で、大切な存在が失われてしまうかも知れないからだ。

「治療費も、一度家に帰ってから、こちらに送ってもらえるようです。
 よかったですよ、これで病院で小さく隠れるような事はしなくていいですし」
「帰ります。ここにいても意味がないって、わかりましたから」
「そうですか、じゃあお気をつけてお帰り下さい」
 何も話さずに入口に立っていた優貴菜が、扉を開く。

「時間を使わせてしまってすいません。失礼します」
 佑介は溢れそうになるわだかまりを抑えながら、部屋を出た。
 莉子との急な別れは、佑介の心を確実に揺さぶっていた。
 できるだけ平静を保つようにして、廊下を歩く。気を抜けば、声を張り上げてしまいそうだ。

「……記憶が戻ったら……用無しかよ…………」
(何で俺にできる大切な人は、一人で行ってしまうんだよ……)

 拳がきしむ。爪が皮膚にめり込む。
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アムネシアのリコ(68)
 急げ急げと、頭の中で連呼する。

 電車の中でも落ち着かず、立ったままで七雲駅を待つ。
 そして、自然と覚えていた七雲総合病院への道を、最近酷使してばかりの自転車に乗って向かった。
 乱暴に自転車を止め、病院の中に入る。
 受付の女性に、前と同じ様に面会の許可を取ろうとした。
 が、

「その方でしたら、今朝退院されているんですが、本当にその方ですか?」
「え、あの……じゃあ看護婦の加藤さんに会わせて欲しいんですけど」
「加藤ですか? 少々お待ちください」
 受付は備え付けの電話で、連絡をしている。

 何故、退院しているのか……佑介は頭を何かにかき回される様な感覚を覚えた。
 そう思わせるほどに混乱した。
「加藤なら、二階のナースステーションにいますが、呼びましょうか?」
 佑介は少し考えたが、
「……いえ……自分で会いに行きます」 と言った。
「一応、あなたの氏名と住所、電話番号の記入をお願いします」
 受付は用紙とボールペンを取り出し、佑介に手渡した。

(――急げ、退院したってどういう事だよ……)

 佑介はボールペンを走らせまくり、ほとんど字に見えるかどうかわからない記号を書いて、受付に渡して歩き出した。
 ナースステーションに着くと、そこにはいつもと変わらない様子の優貴菜の姿があった。
 佑介は、優貴菜を呼ぼうと口を開いたが、その瞬間に、
 視線の先の優貴菜の顔が、くるっと回り佑介の顔を見た。

「あ、その…」
 佑介は優貴菜から送られてくる、棘の生えた視線を感じて、怖じ気ついた。
 すたすたと、ナースステーションから優貴菜が出てくる。
「あんた、ちょっと顔を貸しなさいよ」
 優貴菜は佑介の目の前を通り過ぎて、最近佑介も看てもらったうた鷲木の診察室に向かった。

 扉を開けると、コーヒーを飲んでいる鷲木が回転椅子に座っていた。
「二海君来ましたか。加藤君から昨日の話聞きましたよ? まあ、そこに座って下さい」
 落ち着いた雰囲気で鷲木は言った。
「貴方、とても『何で彼女が退院したんだ』と聞きたがっている顔をしていますね」
 鷲木は腕を組んで目を細めた。口元には苦笑いに似た笑みが伺える。

「もう受付で聞かされたとは思いますが、改めて。記憶喪失の少女、貴方達の中では『莉子』と呼ばれていたそうですが、彼女は記憶を取り戻して退院しました」
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アムネシアのリコ(67)

     3

「二海くんお疲れ様。今日は本当に完璧だったね!」
 彩島ははカウンターに胸押しつける態勢で、佑介に声をかけた。
「そうですか? もう少し落ち着いて仕事できるようになりたいんですけど」
「結構堂々としてたよ? とりあえずオーダー一級位はあげてもいいかな?」
 彩島はくすくすと笑った。それにつられて佑介も笑う。

「じゃあ次は、カウンター一級ですね」
「今日オーダーの仕事をしっかりとこなしてくれた二海君に、
夕飯を振る舞ってあげようか? さすがに二日連続は嫌かな……」
 彩島は机に肩肘をついて、首を傾けている。
 その言葉に、佑介は昨夜の事を思い出していた。

 約束を完璧なまでに忘れてしまっていた事は、佑介の自分に対する苛立ちを強く持たせていた。自分にとって妹の様な存在の、莉子との大切な約束を。
「ごめんなさい、今日は入院してる子のお見舞いに行く予定なんです」
 佑介は手を合わせて謝った。
「二海君が助けた子、まだ入院してたんだ。怪我がひどいの?」
「命に別状はないんですけど、検査がいっぱいあるみたいで、だから心配はいらないんですけど」 佑介は適当な嘘をついて、彩島をかわした。

 深い話はあまりしない方がいいと判断したからだ。
「そっか、じゃあ今日はやめた方がいいね。次カウンターできるようになったら、奢ってあげるよ。今回のはなしね」
 彩島はそう言って、休憩室の方に歩いて行った。
(一刻も早く行って、莉子に謝らないと……)

 佑介は更衣室で着替えている彩島の事を待ち切れずに、エプロンを外しただけの仕事着のままで店を出た。
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アムネシアのリコ(66)
「おはようございます! 莉子ちゃん? でしたっけ」
「…………、すいません。そのあだ名でもう呼ばないで下さい」
 足元に視線を泳がしている莉子は、明らかに嫌悪感を抱いた表情をしている。

 鷲木は接近するアプローチとして『莉子』の名前を呼ぶ事を試みたのだったが、それが逆効果を示した事で、記憶復活の事実を認めなければいけないと思った。
「申し訳ありません。もうお名前も思い出されたんですよね? 教えていただけますか?」

「……は、葉月、麻衣っていいます」
 莉子は小さな声で言った。
「麻衣さんでしたか、ではこれからそう呼ばせていただきますね。家族の名前教えてもらえます?」 鷲木は続ける。
「父は、俊介で、母は晴香っていいます」
「なるほどなるほど。では住所は?」
 莉子は少し躊躇した。鷲木の診察という行為が、自分を疑っているのではないかと思った。

「先生、もしかして、私が記憶を戻したという事を、嘘だと思っているんですか?」
 下を向いていた莉子は、無感情な顔を鷲木に向けた。
 鷲木は無感情に見えるその表情の中に、確かな敵意らしきものが向けられている事に気づく。
 これ以上詮索しすぎるのは、強い不信感を与えると思った鷲木は、
「いえ、そんな事はないんですが、一応カルテという書類を書かなくてはいけませんから、後、住所と学校の名前を教えてもらったら終わりですよ」
「わかりました。じゃあそれだけ」

 その後も、すらすらとはいかないが、自分について語っていく莉子を見て、鷲木は確信する。

 莉子は記憶が戻った事。
言っていること全てが本当かどうかはわからないが、自分の意志をしっかりと持った事に。
「ありがとうございます。これで診察は終わりです。一応大事を取って、今日だけでも入院していただいてもいいんですけど、どうしましょう」
「今日退院したいんです。すぐにでも……」
 莉子の目には強い力が篭っている。鷲木はその視線を真正面からしっかりと受け取った。
 何を言われても意見を曲げることはない。
 もし邪魔をするというのなら、無理やりにでも退院する。
 と、目が語っていた。

「そうですよね。入院しているとお金もかかりますし。あ、治療代については、どうなさいます? ここに両親を呼んでもらってもいいんですけれど」
「いえ、一度家に帰って、親にお金をもらってきます。心配していると思うので」
 目力程の力が言葉には無い。
 莉子の言葉には、口篭っているかの様な弱々しさがあった。
「そうですか。じゃあ結果を報告して退院の許可をもらってきますので、病室の方で少々お待ちください」
 鷲木は立ち上がって、診察室の扉を開く。部屋の外には優貴菜が待っていた。

「今日までありがとうございます」
 莉子は鷲木にそれだけ言って、診察室を出て行った。
 ガチャン、と扉が閉まる音が診察室に響く。
 ドンッ! とその音に次いで大きな音が響いた。鷲木だ。
「あれだけ心に響かないありがとうございますは、久しぶりですね」
 鷲木は机の上で震える右拳を押さえるように、左手を覆い被せた。それでもまだ震えている。
「力及ばずっていうのは、歯痒いものです」

 鷲木はコップに注いであった、冷め切ったコーヒーをぐっと飲み干した。
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アムネシアのリコ(65)
 扉を開けると、莉子はきちんとベッドに腰を下ろしていた。

 相変わらず無表情なのは変わらない。しかし、部屋にいてくれたことに優貴菜は安堵した。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい。お願いします」
 二人並んで歩く光景はいつもと一緒だったが、今は二人の間に壁があった。
 少しの間で築いた人間関係、信頼関係よりも遥かに強く、高い、壁が。

「良かったわね…………記憶思い出して。気分はどう?」
 優貴菜は心にもない台詞を吐いた。声が震えそうになるのを、必死にごまかしながら。
「良かったです。それも優貴菜さんのお陰です」
 淡々と告げられる言葉に心が締め付けられる感覚。
何かが心臓に巻きついて、それが心臓が鼓動するたびに、締め付けてくる。

(その言葉、昨日の莉子に言われたら、どれだけ嬉しかったんだろう……)

 優貴菜は小さく息を吐き出して、気持ちを切り替えるように頬を叩く。
「じゃあ、最後の診察になるかもしれないけど、頑張ってね!」
 そう言って優貴菜は扉を開けた。部屋の中には入らない。というより、
 入れなかった。
「診察が終わったら、また」 莉子は扉を閉めた。
 廊下にが急に無音になる。それはまだ、時間が早いからしょうがない事だ。
 でも、今の優貴菜には、その無音こそが一番の重圧になった。

「っう、うっ、うっ……う、ううう……」
 張り詰めていた線が切れるように、優貴菜の目から涙が溢れる。
 記憶を思い出した事が悲しいんじゃない。
 別れなくてはいけないのが悲しいんじゃない。
 莉子が変わってしまった事が悲しいんじゃない。

「……私はあの子に……何をしてあげれたんだろう…………」
 莉子が病院の中にいた時間を、一緒に過ごしていた時間を、私は莉子に楽しく生活させることができただろうか。喜びや、希望を与えてあげれなかった。と優貴菜は思った。
「あんな顔しかできなくなるなんて…………何で思い出してしまったのよ……」
 頭に浮かぶのは、無表情な莉子の顔。

 両手で目を覆う。それでも手からはみ出す程に、溢れ出す涙。
 優貴菜の嗚咽が、鼻を啜る音が、病院の廊下に響いていく。それを聞く者はいない。
「そんな記憶、ずっと忘れていれば良かったのに……」

 優貴菜は両膝を廊下につけて、少女の様に泣き崩れた。
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アムネシアのリコ(64)
「そうですか、思い出しましたか」
 鷲木は回転椅子をくるりと回す。

「原因は、昨日二海君と外出する約束を、破られた事だと思うんです。
すいません、私が軽率な行動をしたばっかりに……」 頭を下げる優貴菜。
「いえ、別に記憶が戻ることが、絶対的に悪いことになるとは言ってませんよ。
 もともとは、記憶を戻すために入院させていた訳ですしね」
 鷲木は苦笑いする。

 鷲木にとって、この急な展開だけは、あまり望ましいものではないと思っていた。
優貴菜の困りきった表情を見た鷲木は、それを正直に言うことはできない。
「彼女が自殺をするという仮説も、結構突飛だったような気もしますし、はは」
「そうですね。もし自殺するんだったら、起きた瞬間に部屋からいなくなってますもんね」
 二人の間に緊張が走る。今すぐにでも莉子がいなくなってしまう様な気がした。
「じゃあ、あの子を呼んできますね」
「優貴菜さん、最後の診察になるかどうかは、私が決めます。ですから、少し落ち着いてくださいよ。加藤さん」
 鷲木は優貴菜に向かって、笑みを向けた。

優貴菜はそれを見て、少し肩の力が抜け、
「ありがとうございます。嘘だったら、縛り付けてでも入院させてやりましょうねっ」
 そう言うと、優貴菜は診察室を抜けて、莉子の部屋まで駆けていった。
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アムネシアのリコ(63)

     2

 早朝の七雲総合病院。

 優貴菜がいつも通り朝の挨拶をしに、莉子の病室に入った時に、事件は起こった。
「莉子あなた、昨日結局着替えなかったの?」
 病室に入った優貴菜を出迎えたのは、昨夜着た私服姿の莉子だった。
「おはようございます優貴菜さん。昨日の夜一応パジャマ着たんです。でもまた着替えました」
 いつもの様な明るさが無いと、優貴菜は思った。昨日の事が相当効いている、そう思うと、佑介の事が頭に浮かぶ。約束を守らなかった、あの馬鹿が。

「でも、今日のこの時間にはさすがに二海君は来ないわよ? 待つのなら夜まで着替えなくても」「いえ、佑介さんを待っている訳じゃないんです。思い出しちゃったんです」
 優貴菜の心が止まる。体が凍る。瞳孔が開く。汗が噴き出す。
「え、思い出したって………………、何? 約束の事? 昨日の夕飯?」
 必死に話の方向をずらそうとする優貴菜。そのまま話を進めたらどうなるのか、想像したくない。優貴菜は引き攣った笑みを浮かべて、莉子に聞いた。

「記憶です。私は自分の記憶を思い出しました。だから、今日、退院させてください」
 莉子は無表情ながらも真っ直ぐな表情で、優貴菜を見つめた。
 その顔を見て、優貴菜は悟る。
「本当に思い出したのね、いいわ。ちょっと鷲木先生に伝えるから、後で診察室に行きましょう」
「わかりました。ありがとうございます」 莉子は頭を下げる。

 優貴菜は、明らかに変わってしまった莉子を見ていられず、そそくさと病室を出て行った。

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アムネシアのリコ(62)
「何だか楽しそうな事をしているね? 私も混ぜてもらえないだろうか」
 そして最後に、『喫茶加藤』の主、優貴菜と拓朗の父親である、加藤拓昌(かとう・たくまさ)が現れた。もう佑介はこの異常事態をどうしたらいいのかわからなかった。

「てっ、店長! まだ客は来ていないんで、休んでてください!」 赤橋は拓昌に近寄ると、身体の調子を心配した。拓昌は腰が弱く、客のいない間はできるだけ、腰を休めるようにしている。
「いやいや、優貴菜がいた頃の賑やかな店を思い出してな、ちょっと顔を出したくなっただけなんだがね、赤橋君は相変わらず私の事を年寄り扱いしすぎるね」
 拓昌は赤橋の肩をぽんと叩いた。しかし赤橋の不安そうな顔は、変わらなかった。
佑介は、赤橋のそんな表情を見たことが無く、少しだけ赤橋の印象が変わっていた。

 すると、ホールからカラカラーンという鐘の音がした。
 この鐘は入り口が開いた時に音がする様になっている。

「おっと、ちょうどお客様が来てしまったようだね。じゃあ、みんな、午後もよろしくお願いしますよ?」 店長は全員の顔を見回して、にこやかな表情を浮かべた。
 全員が、よろしくお願いします、と声をあげた。
「二海、お前朝は調子よかったが、午後はそういくとは限らない。気を抜かずに、しっかりやれよ?」
 そう言って拓昌と赤橋は、冷蔵庫にある昼食用の材料を取りに向かった。
「はい。わかりました」 佑介は、今の言葉が赤橋なりの応援なのではないかと思った。

「全く素直じゃないよね。じゃあホール組みの私達も行きますか!」
 彩島は右腕を折り曲げて、力こぶを作る真似をした。
「何か彩島先輩、今日楽しそうですね! 何かいい事あったんですか?」
 楽しそうな人といると、何故か楽しくなってくる効果(?)が作用して、佑介は理由も無く楽しい気分になっていた。
「そう? うーん、受験勉強から離れてるからだよ。あっ、口に出したらまた思い出しちゃった……うぇ……」 彩島は口に手を当ててしゃがみこんだ。

「ごめんなさい、思い出させてしまって! じゃあオーダーとって来ます!」
「いってらっしゃーい……がんばってね〜」 彩島は手を振った。
 急に静かになったキッチンに残された彩島は、

「素直じゃないのは、誰なんだろうね……」 と呟いた。

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アムネシアのリコ(61)

第四章 ダウン・ライト・ライ

     1

「「ありがとうございましたっ!」」 佑介と彩島の声がはもる。

 七月二十六日、お昼時の『喫茶加藤』は、昨日の賑わいを忘れたかのように平常営業。いつも通りのまばらな客が、コーヒーを啜りながら、スポーツ新聞や、週刊誌を読み漁っている。
 昨日、莉子との約束を忘れきった佑介は、ベッドに身体を横たえても全く眠気がやってこず、今朝も睡眠不足のまま、バイト先までふらふらと自転車を漕いだ。
 ここまで聞くと、昨日と全く同じ展開だったが、今日の佑介は違っていた。

「二海君、今日はオーダーミス無かったね? 何か凄い集中してたよ」
「そうですか? 気持ちが入れ替わったからですかね。俺もアルバイトを頑張ったら、変われるような気がしてるんです。先輩のお陰ですね」
「私、昨日凄い喋っちゃったよね……私のお陰なんて言わないでよ。これから二海君が変わる事に私は関係ないと思うしさ」 彩島は食器洗いをしながら答えた。
「目指すは先輩ですよ! 俺、先輩のいる高みに近づいてみたいんです」

 佑介は彩島が洗った食器を、隣で受け取って丹念に水分をふき取っている。佑介は、食器を見つめながら、そう言った。
「私の高みって、私なんかそんなにいい物じゃないって……今だって受験勉強が上手くいってないしさ……」 彩島は苦笑いしながら、円を描くように皿を洗っていく。
「そういえば、先輩今年受験ですよね。やっぱり国立の大学を目指してるんですか?」
「うーん、受験の話はちょっと今やめて――――、ここにいる時だけは忘れてたいの」
 彩島は首を左右にブンブンと振った。受験の話が相当したくないようだ。

「わかりました。じゃあまたここ以外の場所で会ったときに、お願いしますね?」
「二海君鬼だよ……、外では会わないようにしよ、絶対に逃げ切ってやる―――――!」
 彩島はエプロンを捲り上げて、顔半分を隠すようにした。
「手始めに三年生の補講に忍び込んでいいですか?」 ニヤリと笑う佑介。

「おい、お前ら随分楽しそうだな。俺も混ぜろよ。なあ?」

「「えっ」」 キッチンが北極に転送されたかの様に、空気も身体も、一瞬にして凍りつく。
「俺も同じ従業員なんだが、そうやって無視するのはよくないんじゃないか?」
 赤橋は右手に缶コーヒーを持って、ニヤニヤしながらキッチンに入ってきた。喫茶店の店員が、自販機のコーヒーを飲んでいるのはおかしい気がするが、赤橋には似合っていた。
「チーフ、そんなキャラでしたっけ……大人しくキッチンで店長と新作料理でも研究してて下さいよっ」 彩島はほっぺたを膨らませて、鬼チーフである赤橋に堂々と文句を言った。
「彩島っ、お前こそ上司にそんな事を言うキャラだったか? 昨日の一件もそうだが、これは店長に報告して、店の要会議事項にしないといけないみたいだな」

 赤橋の手に握られたスチール缶が変形する。
 佑介は、キッチンで急に勃発した彩島×赤橋戦争の、真ん中にポジションを取っていた。
「二海君もチーフに言ってやってよ、店長とよろしくして来て下さいって!」
「二海、お前分かってるよな。ここではどちらに付いているのか正しいのかって事をよ!」

 左右から睨まれる佑介は、何なんだこれ! と心の中で何度も唱えた。
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決意表明!
今日最後まで書ききる、意思表示を残しておきます!
じゃあ行ってきます!!!!
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[日記

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アムネシアのリコ(60)

     5

 何で、無視するの? お父さん。
 私、ここにいるよ? なのに、何で私を見てくれないの?

 目の前でテレビを見続ける大きな男は、私のお父さんだ。でも、私が何を言っても、こっちを見てくれない。私を見てくれない。
 お母さんはご飯を作っている。キッチンに向かって、黙々と。包丁の音がトントンと、聞こえてくる。友達はみんなその音が好きらしいけど、私は好きじゃない。

 ご飯よ、とお母さんが言った。私は急いで机に走る。椅子に座って、ご飯を食べる。
 私の隣にお母さんが座って、左前にお父さんが座る。
 お父さんはお母さんが喋っても、そっけない返事をして、まだテレビを見てる。
 私がお母さんの顔を伺うと、お母さんはにこりと笑って、私を見た。
 私はお父さんと呼ぶ。でも、お父さんはこっちを向かない。テレビが好きなお父さん。
 それが、私の家族のご飯の時間。

 その日はお母さんは仕事で、家には私とお父さんしかいなかった。
 お父さんはいつもと同じように、テレビを見ている。たまに小さな笑い声が聞こえて、近くによっていくと、お父さんは笑いを止める。
 お父さん何が面白いの? と聞いても、お父さんは答えてくれない。
 お昼になって、私はお腹が空いてきた。
 お父さんもお腹が空いてきたのか、テレビを消して立ち上がった。
 お母さんに朝言われた、冷蔵庫に入っているご飯を取り出して、電子レンジに入れる。
 チン、といい音がして、温かくなった料理がいい匂いが部屋に広がった。
 机の上に料理を置いて、椅子に座った。
 お父さんは机に向かって歩いてくる。でも、その机を通り過ぎた。
 ガチャンと、玄関の扉が閉まる音がした。
 玄関を見に行くと、お父さんの靴がなくなっていた。
 お父さんは、外に行ってしまった。

 少しの時間、テレビを付けてお父さんを待った。テレビの音につられて、お父さんがやって来ないかと、少し思った。
 でもお父さんは結局帰ってこなかった。
 冷めてしまった料理を食べる。あんまり美味しくない。
 その夜、やっと帰ってきたお母さんは、すぐに寝てしまった。
 私は一人で、ご飯を作って食べた。最近よく、お母さんが料理を教えてくれる。
 私はお母さんと、楽しく料理をする。この時間が一番楽しい。

 その次の日も、お母さんは夜まで仕事で帰ってこなかった。
 同じように一人でご飯を作って、一人で食べる。料理が上手くなっていくのがわかった。

 次の日も、お母さんは夜まで仕事だった。

 私は、お父さんに見えていない。
 お母さんは私と一緒にいる時間が、段々減っていった。

 お父さん、お母さん私を一人に、しないで……
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