「くそっ……その場所には…………いかせないぞっ!」
佑介は最後の力を振り絞って、段々と加速していく。
五メートル、三メートル、一メートル、
「つかまえたっ!」
佑介は莉子が抱える鞄のストラップを掴み、引き寄せた。
「やめてくださいっ、何で追いかけてきたんですか……」
「莉子こそ、何で逃げたんだよ。別に逃げなくてもよかっただろ……」
雨に打たれる二人は、お互いの顔が見えない位に濡れて、服はこれ以上水を吸わない位になっていた。
「手紙に書きましたよね、もう会いたくないって、だから……もうやめて……」
「何も変わってないじゃないか、手紙の通りだと、莉子は変わっている筈だったんだろ?」
「変わってるんです。だからもう、私と話さないで……」
莉子は顔を背ける。
「何でだよ。俺は大丈夫だから」 佑介は穏やかな声を心がけて言った。
「大丈夫なんて、何でわかるんだよッ!
お前、私の何を知ってるんだよッ!」
佑介の表情が固まる。
佑介の顔を睨みつける莉子の表情は、いままで見たことの無い、怒りに満ちた表情だった。
眉毛の端と、目尻が釣り上がった莉子は、佑介の顔を睨みつけていた。
「お、お前って、言ったのか?」
佑介は唖然としていた。
「――――言ったよ。言葉が汚いだろ? これが私の喋り方だったんだ」
「……汚いとかはないけど、普通に喋れていたのは、我慢していたのか?」
「我慢してた。自分の事思い出してからは、丁寧に喋るのが辛かった」
莉子の表情は力を無くして、肩からずり落ちる様に鞄が地面に落ちた。
「今の私を、お前に見せたくないんだ。記憶が戻った私は、見て欲しくないんだ」
「どういう意味だよ……」
「私、思い出したんだ。家族は私の事を、大切だなんて思ってなかった。
家で私は、父親に無視されて、母親も私から逃げてたんだよ」
「それが、どうしたんだよ!
俺は莉子が家族から思われてなかったからって、嫌ったりなんかしない。友達だ!」
「昨日嘘ついたじゃないかッ! 家族と一緒で、あいつらもお前も私を放っておいたんだ」
莉子は鞄を持ち上げて、どこかに行こうとする。
「じゃあ、これからどこに行くんだよ! 居場所はどこにもないんじゃないか……」
「どこでもいいじゃないか。お前には関係ない」
「関係なくなんてない、大切な友達を放っておけない!」
莉子の動きが止まる。鞄がまた莉子の手から落ちた。
「大切なんて、聞きたく、ないよぉぉぉぉぉぉっ」
しゃがむ様にその場に座り込む莉子。声が鼻声になっている。
「昨日は、本当にごめん……これからは絶対に、お前との約束を守るから」
「……私は、信じたい、けど、裏切ったのはお前だぁぁぁぁっ」
急に立ち上がり、佑介の襟を掴んだ。
「謝る。何度だって謝る、だからっ、まだ、俺を信じて欲しいんだ……
まだ、莉子との関係を無くしたくないんだよっ!」
佑介は、莉子の肩を掴んだ。
「…………何でそこまで私にこだわるんだ…………死んだ妹の、代わりかよ……」
言われた佑介は、動揺して肩を掴む力が少し弱まる。それが莉子にもわかった。
「やっぱりそうだ。勝手に死んだ妹を重ねて、それを求めてるだけじゃないか……」
「……そうかも知れない。俺は妹の代わりが欲しいのかも知れない。
でも莉子だって、家族の代わりが欲しかったんじゃないのかよっ、違うのか?」
莉子は泣きそうな顔を佑介に向けた。
必死に涙を我慢している、佑介にはそう見えた。
目を潤ませるその顔を見て、莉子という人間は、何も変わっていないんだと思った。
「何も変わっていない、莉子は莉子だ。俺は莉子と、もっと一緒にいたい」
「私は…………私も……お前と一緒に……いたいんだよ……」
佑介は莉子の頭を腕で抱きしめた。
莉子は幼児のような声で、佑介の耳元で散々泣き喚いた。
06,
2008
posted by COLOR FLOW
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一次小説「アムネシアのリコ」]
thema:自作連載小説 - genre:小説・文学